Curriculum 2026 明治学院共通科目ガイドブック
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各外国語紹介 ロシア・アヴァンギャルド運動の代表的絵画「バケツを運ぶ農婦」(左、よく見ると天秤棒の両端にバケツがかかっているのがわかる)と「黒の正方形」。作者のマレーヴィチは現在のウクライナ生まれ。44 ロシアにはひいき目に見ても世界に誇れる文化があると思います。今回の侵攻により、それすらも否定されてしまうのではないかという恐れがありましたが、そのようなことにはあまりなっていないようです。クラシック音楽のコンサートでチャイコフスキーの作品が演奏されるという予告を目にすると、ほっとします。キーウのバレエ団がチャイコフスキーのバレエを上演すると聞くと、政治と文化を分けることは可能なのかと安心したりします。 芸術は政治と協力関係にあることもありますが、多くの場合、政治と対立関係にあり、迫害されながら創作を続けます。1917年にロシアでは革命が起こります。それまでの皇帝を中心とした政治に対し、民衆が反旗を翻すわけです。ことのきに民衆側、反皇帝側の芸術運動として、ロシア・アヴァンギャルドというのがありました。これは絵画、詩、音楽、建築などだけでなく、広告なども含めた広範な芸術運動でした。ロシア・アヴァンギャルド運動は、革命が成功するまでは、革命勢力と手に手を取って進んでいたのですが、やがて革命が成功し、革命勢力が権力を握ると、この権力によって邪魔者扱いされ、潰されてしまいます。 また政治と戦った、戦わざるをえなかった芸術家は枚挙にいとまがありません。ニコライ 1 世の検閲下で創作しなければならなかった詩人プーシキンやレールモントフ、ソ連政府の圧力を受けながら創作した作曲家ショスタコーヴィチなどです。ロシア革命のときには、ラフマニノフなど多くの芸術家が祖国を逃れて、フランス、ドイツ、アメリカなどに亡命しています。 国家としてのロシアは乱暴者です。そのような国の大地から,トルストイやチャイコフスキーのような芸術家が生まれているという事実は,何とも不思議なことで,ロシアの得も言われぬ魅力となっています。 2022年 2 月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻を機に、日本のロシア語関係者はどのように行動したらよいかずっと迷っています。同時にこれを機にロシアというものについて、今まで以上に深く考えさせられています。ロシア語を学ぶ意味、ロシア語を教える意味がどこにあるのか迷っています。ただアメリカは太平洋戦争開始時に、少数精鋭で日本語のエキスパートを育てており、そこで学んだ人々が、戦後の日米において大活躍しています。このようなときにこそ、ロシアを知る必要があるとも思います。 以下にロシアの歴史・文化・芸術、現代ロシアの政治・経済、日ロ交流史などについて、またロシア語圏である中央アジアについて、理解を深めるための本を紹介します。ロシアの芸術和平に向けて

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