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8山内 薫月例研究報告「ことば」の学びに寄り添う日本語教育─「学習と人生のつながりの軸」の形成と意識化をめざして─ 拙著『「ことば」の学びに寄り添う日本語教育─「学習と人生のつながりの軸」の形成と意識化をめざして─』(くろしお出版、2022年2月)の出版に伴い、教養教育センター付属研究所2021年度第2回研究報告会(2022年3月23日)で報告の機会を頂いた。本報告会では、対面とオンラインを併用し、まず前半30分に本書の構成に沿い、研究を報告した上で、後半30分に質疑応答を行った。 本書では、社会的文脈や単一的な目的設定を背景とする、将来において「使うあてのない外国語学習」(=将来の就業あるいは学業において使用する可能性が低い「ことば」を学ぶこと)への取り組みが注目される。このような学びの取り組みは、本書の研究協力者であるフランスの日本語専攻学生だけではなく、国外の日本語学習者、そして、国内の大学で外国語を学ぶ学部生にも共通する。本書で注目する「使うあてのない外国語学習」というキーワードは、英語以外の言語を外国語として学ぶ意義に関する議論において、「使うあて」があることが前提とされていることに対する問題提起となっている。本書は次の8章で構成される。 第1章 「日本語学習と人生のつながり」という問題設定 第2章 「学習と人生のつながり」はどのように捉えられてきたか 第3章 日本語専攻学生が置かれている日本語学習環境 第4章 人生と日本語授業─日本語ポートフォリオ実践研究─ 第5章 生活と日本語学習─在籍生へのインタビュー調査─ 第6章 「移動」と日本語学習─修了生・中退及び転科者への質問紙・インタビュー調査─ 第7章 総合考察:「学習と人生のつながり」から捉える日本語学習の実態 第8章 「学習と人生のつながりの軸」の形成と意識化をめざした外国語教育に向けて フランスの国立大学の日本学科では、これまで、幾度も日本語専攻学生に対する教育が再考されてきた。しかし、「ことば」の教育を再考する上で、日本語を学ぶ当事者である日本語専攻学生の視点が組み込まれていなかった。また、「日本語専攻学生の日本語学習」は、日本語専攻学生が「成功者」(=進級・修了した学生)となることと意味づけられていた。そして、将来において「使うあてのない外国語学習」としての日本語を主専攻として学ぶ学生に対し、言語的道具としての「ことば」の獲得に価値が置かれる日本語学習が行われてきた。しかし、「成功者」を増やすことを目的とする従来の大学・教師の視点からではなく、日本語を学ぶ当事者である日本語専攻学生の日本語学習実態から、教育のあり方を探究する必要がある。 このような問題意識を背景とし、本報告では、まず、本書における研究において、「ことば」を学ぶことにおける基本的な視点として、「生きる活動」及び「移動性」という二つの視点を持つこと、そして、フランスの国立大学の学士課程日本学科における日本語専攻学生(在籍生、修了生・

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