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15日高 知恵実図1 日本とイングランドの方言グッズ(1)月例研究報告中国語方言グッズの世界 みやげもの店で方言が表記された商品を目にしたことはないだろうか。筆者が長年居住していた石川県金沢では、「あんやと」とくりぬかれた木製ブックマークが販売されていた。大阪では「おおきに」「すきやねん」「まいど」などと焼き印されたカステラが店頭に並んでいるようである(図1)。こうした方言が表記された商品(本稿では方言グッズと呼ぶ)は方言産業の1つで、方言を活用することで経済的な価値を付加している。上述のカステラも焼き印がなければただのカステラであるが、「おおきに」と焼き印を入れることで、大阪みやげとしての価値を出しているわけである。 方言グッズは日本特有のものかと思いきや、そんなことはない。試しにウェブ上でdialect mugと画像検索してみると、英語圏の方言がびっしりと記されたマグカップが出てくる。図1で挙げているのは、イングランド北東部に位置するニューカッスルの方言、いわゆるジョーディーの音声特徴を表記したマグカップである。イングランドの人びとが話す英語は、南部方言と北部方言に大別される(田中2012:21)。北部方言に属するジョーディーは大母音推移以前の古い形式を残しているため、例えば二重母音[aʊ]は[u:]と発音される。aboutをABOOT、cowをCOOと表記しているのは、こうした音声特徴を反映させるためである。 筆者がフィールドとしている中国においても、中国語の方言グッズは存在する。ここでの中国語の方言とは、中国の人口の9割以上を占める漢民族が話す「漢語」の方言を指す。筆者が現物を入手しているものに加えてウェブ上での販売が確認できたものを合わせると、トランプ、カレンダー、絵はがき、Tシャツ、トレーナー、バッジ、ステッカー、しおり、マグネット、スマートフォンケース、キーホルダー、コースターなどがある。杭州唄殻説網絡科技有限公司が販売している観光ステッカーは、パッケージに「旅行商品」の文言が見える。一般的に「旅行」から連想されるのは、観光名所、食文化、伝統芸能などであるが、このステッカーではさらに方言に関するものも

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