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23経験や勘のみに頼った方法(トレーニング)では、これ以上のパフォーマンス向上は難しいように感じる。しかしながら、現在も科学技術は加速度的に発展していることから、スポーツ科学の発展も継続すると予想される。スポーツ現場の経験や勘と科学を上手く利用することで、まだしばらくは短距離走パフォーマンスを改善できると期待している。 スポーツ科学研究には、様々な切り口があるが、現在私が取り組んでいるのは、力学的なアプローチを用いた研究である。物理法則によれば、物体は力が加わることによって加速する。身体は質量を持った物体であるから、身体速度、すなわち疾走速度は身体に課される力の大きさと向きに依存することとなる。疾走中に身体にかかる力は、重力と空気抵抗(抗力)、そして足部を介して地面に加えた力の反力である地面反力の3つのみである。このうち基本的には、重力は一定、また空気抵抗は疾走速度に依存して受動的に課されるものであり、唯一競技者が能動的にコントロールできるのが足部を通じて地面に発揮する力、そしてその反力である地面反力である。本報告会の後半では、私が研究サバティカル期間中に行った地面反力測定を用いて行った研究として、①疾走動作の力―速度関係の特徴、および②牽引負荷が疾走動作の力―速度関係に及ぼす影響という2つの研究の概要を紹介した。研究内容の詳細については、公表前のため割愛するが、従来の研究報告とはやや異なる結果が得られている。力―速度関係という、身体運動科学において最も基本的な概念においても確定的な結論が得られていないということは、スポーツ科学の発展によってさらに短距離走パフォーマンスを向上できる可能性があることを示唆しているとも捉えられる。スポーツ科学者としての究極の目的は、スポーツパフォーマンスの向上に寄与することである。今後はさらに研究を発展させ、現場のトレーニングへの応用を通じて、選手のパフォーマンス向上に貢献したいと考えている。

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