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24福山 勝也月例研究報告小角X線散乱測定による炭素材料中の細孔構造評価 活性炭などの多孔質炭素材料中に存在する細孔を評価する手法として、窒素等の分子吸着による方法が広く用いられている。しかしながら、この分子吸着による方法は外表面に通じている細孔(開気孔)のみがその対象となり、外表面に通じていない細孔(閉気孔)については、その情報を得ることは不可能である。 小角X線散乱(Small-angle X-ray Scattering:SAXS)は、X線が透過する系中に、ナノメートル(10-9m)オーダーの粒子や空隙など、周囲と電子密度が異なる領域が存在する場合、その領域の大きさや形状を反映した散乱パターンを生じる手法であるため、これを多孔質炭素材料の細孔構造評価に適用した場合、細孔の開閉を区別することはできないものの、細孔の開閉を問わず用いることが可能である。しかしその一方で、SAXSではその基本的な解析理論において、散乱体である粒子あるいは細孔が均一のサイズ、均一の形状を有し、かつ、孤立して存在しているとみなすことができるという条件を仮定している。すなわち、粒子あるいは細孔の大きさや形状がそろい、かつ、評価対象である散乱体同士がお互い十分離れて存在することにより散乱体間の相関が存在しない、もしくはほとんど無視できるという条件が測定データを解析する上で極めて都合がよいということになる。溶液系試料に対するSAXS測定の場合、評価対象である散乱体間の相関を無視できる程度にまで実験的にその濃度を十分希釈し調整することは可能であるが、一般的な炭素材料の細孔構造評価においてそのような条件を作り出すことはほぼ不可能である。そのため、炭素材料に対するSAXS測定では、評価対象である散乱体、すなわち細孔同士が比較的近距離に存在していることにより生じる細孔間の相関がその散乱パターンに与える影響を無視できない場合が多く、また、個々の細孔の大きさや形状も一般に不均一で複雑であるなどの理由から、そのSAXS測定結果の解釈は必ずしも容易なものではないのが実情である。このことは同時に、炭素材料の構造解析手法として広く普及しているX線回折(X-ray diffraction:XRD)測定に比べて、SAXSも同じくX線を用いた手法であるにもかかわらず、広く普及するに至っていない理由の一つにもなっている。 そこで筆者らは、炭素材料中の細孔構造評価におけるSAXS測定の理想的な試料条件を実現可能な手法として、熱処理および炭素化処理により炭素マトリックスを与える「炭素前駆体樹脂」と、熱処理により消失しその部分に細孔を与える「細孔形成(熱消失性)樹脂」とを混合した「ポリマーブレンド」による多孔質炭素材料の調製に着目した。この方法では、用いる細孔形成樹脂の粒径を選択することや、両樹脂の混合比を変えることによる濃度調整が可能であるため、結果として得られる細孔の大きさや形状が比較的揃い、かつ、細孔数(濃度に相当)をコントロールすることにより細孔間の相関を無視できる程度にまで細孔を減じることが可能となり、ゆえに、SAXS測定結果を解釈する上で極めて好都合な散乱パターンを得ることが可能となることが期待できる。 今回の研究報告では、ポリマーブレンド法により調製した多孔質炭素繊維中の細孔構造について、基本的な解析理論による解析に加え、理論散乱曲線とのフィッティングによる解析、さらに、炭素化処理前のポリマーブレンド繊維中における細孔形成樹脂の形状評価をおこなった結果をあわせ、

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