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25細孔形成へと至る一連の構造変化を考察した結果について紹介した。 炭素前駆体樹脂としてノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂を、また、細孔形成(熱消失性)樹脂として公称粒径30nmのポリスチレンビーズをそれぞれ用いた。ポリスチレンビーズをノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂に対して10wt%混合したポリマーブレンドを、135~140℃で紡糸、その後不融化処理を施したのち、これらを500℃ならびに1000℃にてそれぞれ熱処理したポリマーブレンド繊維炭素化物、さらに、炭素化処理を施していないポリマーブレンド繊維の、計3サンプルを測定に供した。 SAXS測定は、回転対陰極型X線発生器、検出器に1次元検出器である位置敏感型比例計数管(Position Sensitive Proportional Counter:PSPC)を用いた装置によりおこなった。入射X線波長は0.15406nm(CuKα1)、試料位置から検出器PSPCまでの距離(カメラレングス)は1200mmである。なお、測定(露光)時間は各試料とも1800秒でおこなった。 各プロットによる解析結果から見積もられた炭素繊維中の細孔の構造パラメータは、各プロット間において互いに相補的かつ補完的なものとなった。炭素材料中の細孔構造評価におけるSAXSの適用例は多く報告されているものの、一般に複雑である炭素材料の細孔構造の解析において、本報告に示したように多角的にしかも矛盾なく解析できたことは極めて稀なことであると言える。ゆえに、このポリマーブレンド由来の炭素試料をSAXS測定による細孔構造評価における標準的な試料として位置づけることができたものと考えている。 加えて今回、これまでの各プロットによる解析結果の妥当性の検討、ならびにより詳細な解析をおこなうことを目的として、SAXSの理論散乱曲線を用いたフィッティングによる解析を導入した。これまでの各プロットによる解析では、500℃、1000℃試料中の細孔の形状をどちらも円柱形であると仮定しておこなっていたが、理論散乱曲線フィッティングによる解析の結果、両試料中の細孔の形状は、いずれも異方的な形状を有しているものの、500℃試料中の細孔は異方性がより低く、また、円柱様形状よりは回転楕円体に比較的近い構造を有していることが示唆された。一方、1000℃試料中の細孔は500℃試料中の細孔よりも異方性が高く、また、細孔の胴囲は500℃試料中の細孔と同様に若干回転楕円体のように膨らんではいるものの、500℃試料中の細孔よりも円柱形に比較的近い構造を有していることが示唆された。 さらに、炭素化処理前のポリマーブレンド繊維のSAXS測定データについても理論散乱曲線によるフィッティングをおこなった。これにより、炭素化処理前のポリマーブレンド繊維中における細孔形成樹脂の形状は、短軸長10.6nm、軸比1:3.2の回転楕円体を想定するとうまく一致する結果が得られた。また、ここで得られた各構造パラメータは、仕込んだポリスチレンビーズの公称粒径とオーダー的にもよい一致を示した。

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