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26 細孔形成樹脂であるポリスチレンビーズの形状変化から、熱処理・炭素化処理にともなう細孔形成、ならびに細孔構造変化へと至る一連の変化についてまとめてみる。まず公称粒径30nmのポリスチレンビーズが、紡糸操作により短軸長10.6nm、軸比1:3.2の回転楕円体へと変形し、その後500℃処理により、7.0nm程度の胴囲を有する比較的回転楕円体に近い形状を有する異方性の細孔となり、さらに1000℃処理を施すことにより、胴囲が5.9nm程度で若干回転楕円体のように膨らんではいるものの、比較的円柱形に近い形状を有する異方性形状の細孔へと変形していく、というものである。 なお、今回は細孔形成樹脂であるポリスチレンビーズの形状変化、ならびにそれに由来する細孔についてのみを対象として考察した。しかし、炭素前駆体樹脂として用いているノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂は、その炭素化により、いわゆるガラス状炭素を与える樹脂である。ガラス状炭素中には細孔が存在すること、また、その細孔が熱処理温度の上昇にともなって成長していくことを我々はすでに確認している。1000℃程度であれば、いわゆる下地の樹脂に由来する細孔はまだそれほど大きくはなく、ゆえに、細孔形成樹脂由来の細孔構造の評価に大きく影響を与えることはないものと考えられるが、熱処理温度が上昇するにしたがって炭素マトリックス部分に由来する細孔の影響を無視できなくなる可能性は十分に考えられる。今後さらなる高温処理を施した場合の、下地マトリックス由来の細孔による影響についても考えてみたい。 また、SAXS測定においては、散乱体間の相関が認められない場合であっても、散乱体の濃度が高い場合、その散乱体の大きさは実際よりも小さく見積もられるという傾向があり、散乱体の真の大きさを見積もるためには、横軸に散乱体の濃度、縦軸にそれぞれの濃度で見積もられた散乱体の大きさを採ってプロットしたグラフの、濃度ゼロに外挿して得られる値を用いるべきである、という指摘もある。今回は濃度依存性についての議論はおこなわなかったが、散乱体間の相関に対する解析の検討も含め、あわせて今後の課題としたい。 最後に、今回の研究報告会では、出席者から「これは何に使えるのか」といった類の質問を受けた。当日はうまく説明することができなかったが、活性炭や備長炭などに代表されるように、多孔質炭素材料の細孔(開気孔)は分子を吸着する性質を有している。今回紹介したポリマーブレンド由来の炭素繊維試料中の細孔は閉気孔であるため、ただちにこの試料自体に分子吸着等の応用面を期待することは難しいと思われるが、ポリマーブレンド法によって炭素材料中の細孔の大きさをデザインすることが可能であることから、例えば、ある分子に対する吸着能と細孔の大きさや形状との関係性を見い出すことができれば、そこからいわば逆算して、有害な分子をより効率よく吸着除去するための多孔質炭素材料の開発へと繋がっていく可能性があると考えていることを、ここに付言する。

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