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研究所概要報告月例研究報告ランゲージラウンジ活動報告公開講座語学検定講座報告研究プロジェクト報告研究業績62The Annual Report of the MGU Institute for Liberal Arts長谷部美佳1.はじめに 本講座では、災害時に「弱者」とされがちな日本に暮らす外国人について、実際には支援者として社会を支える側に回る存在でもあるという見方を提供することを目的として報告を行った。 具体的には、日本に在留する外国人の概要と災害弱者の定義を振り返ったあと、阪神淡路大震災時と東日本大震災時の、それぞれ震災での外国人の被災状況、その後の復興における外国人の活動などを紹介した。そのうえで、外国人の被災状況をできるだけ悪化させないようにし、なおかつ支援活動に積極的になってもらえるようにするには、震災時だけでなく平常時のつながりが有効であるとまとめた。2.日本の在留外国人の概要と災害弱者 法務省の在留外国人統計1)によれば、2023年6月末日本に暮らす在留外国人の総数は3,223,858人となっている。このうち、全体の3割を占めるのは永住者と特別永住者であり、定住者や日本人配偶者、日本人の子、永住者の配偶者など、在留外国人の約6割は、日本に長期的に滞在し、帰国しない可能性を持つたち、法務省の定義による「身分による」在留資格を持つ人たちである。労働関連の資格で入国するものに比べれば、震災に被災する可能性が圧倒的に高い人たちである。ただし、長期的に滞在している人、イコール日本語能力が完全である、ということを意味しない。法務省の2017年の調査2)では、回答者のうち「日常生活に困らない程度に会話できる」3)と答えた人が29.7%だったが、「日本語での会話はほとんどできない」という人も10.4%ほどいた。回答者全体の6割が永住者、特別永住者、定住者だったことを考えると、長く滞在する人たちの中にも、日本語の会話に困難を抱える人が一定数いることは明らかである。ちなみに今から約20年前の2001年の文化庁の調査4)では、日本語の文字について、ひらがなが読める人は84.3%だが、漢字が「少し」読める人が約5割、漢字の意味が分かる人は2割に過ぎなかった。 このことを考えれば、外国人は災害弱者と考えてよいだろう。実際平成3年版防災白書5)では、「災害弱者」の様々な条件を示しているが、その中に「危険を知らせる情報を受け取ることができない、または困難な者。危険をしらせる情報を受け取ることができても、それに対して適切な行動をとることができない、または困難な者。」というものがあり、その具体例の中に「短期滞在の外国人(日本語が分からない)」人が含まれている。漢字社会の日本において、漢字が意味も分かり読むことができる人が2割にしかならない外国人は、情報を十分に受け取ることができない人であろう。 阪神淡路大震災でも、東日本大震災でも、事実日本語がわからないために被災状況が悪くなった、あるいは困難を経験したという外国人は多数存在していた。だが同時に、それぞれの災害時、自分たちで立ち上がり、自分たちの「自治」を行ったり、あるいは災害の炊き出し活動に従事したりしたという外国人も多数存在していた。以下では、阪神淡路大震災、東日本大震災それぞれについて、被災状況と支援活動を「外国人」の視点から振り返る。2023年度明治学院大学みなと区民大学公開講座報告阪神・淡路/東日本大震災と日本に暮らす外国人 ─社会の担い手として─

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